
☑ 報告項目削減で業務負担の軽減効果を実感
☑ 共通プラットフォーム構想は具現化し、概念実証へ
☑ プラットフォームはレジ2度打ち問題も解決に導く
※本セミナーのアーカイブ動画の視聴および資料(抜粋)はこちら
【林】 ショッピングセンター(以下、SC)業界で長年見直されてこなかった大きな課題が売上報告です。アナログで非効率な作業は、とくに閉店後のテナント販売員に大きな負荷を与えています。ディベロッパー側も報告内容の精査などに膨大な時間と要員を割いています。この業務をゼロにできたら、本来の接客や売場づくり、施設の魅力度向上に使えるはずです。
私が委員長を務める(一社)日本ショッピングセンター協会(以下、SC協会)のデジタルトランスフォーメーション委員会(以下、DX委員会)は、2024年5月に「売上報告の効率化に向けた提言」を発表し、報告項目を純売上、商品券類、売上控除、レジ客数の4項目に絞る「売上報告業務標準化案」のほか、中長期的な対策として共通プラットフォーム構想も提示しました。2025年度には勉強会を全国3カ所(東京・名古屋・大阪)で計4回開催し、約100人が参加。標準化の進め方と自社への導入の仕方を議論しました。
そのなかで会社に導入を促す過程で「他部署の理解が得られない」「社内の上層部の理解を得にくい」という声が聞かれました。本日は導入事例として、㈱西銀座デパートがこれらの問題をどう解決し、導入されたのかを伺いたいと思います。
報告項目削減に成功した西銀座デパート
【小瀧】 当社は東京・銀座で「NISHIGINZA(西銀座)」というSCを運営しています。ファッションや生活雑貨、服飾雑貨など約60店舗が4フロアに出店しています。当社は2023年10月に売上報告の効率化の検討を開始しました。同年12月にはSC協会を訪問し、情報交換を実施。2024年9月に開かれた勉強会にも参加し、他社の困り事や作業事例などを共有。同年11月には売上報告項目削減の社内決裁を得ました。2025年1月にはテナント本部と売場スタッフに変更の案内文書を配布し、2月にシステムの一部を改修。3月には売場スタッフに向けた新たなマニュアルを配布したうえで、4月に売上報告項目の削減に踏み切りました。
当社にはそれまで現金売上額など細かな報告項目が最大27項目ありましたが、4月以降は7項目に削減。「純売上」と「客数」のみが必須で、商品券や免税売上などの5項目は, 発生した都度に報告してもらうよう変更しました。
導入にあたっては説明用資料を作成しました。担当者やテナントスタッフが実際にどんな作業をして、日々の売上げが確定され、家賃が確定されるのか。そしてその作業にどんな課題があり、それを解決することでどんな効果が見込めるのかをイラストも使用しながら、誰にでもわかりやすく可視化しました。その結果、社内における理解も浸透。現場レベルでは誤入力・誤報告を防ぐことに力を注ぎました。純売上の欄に税込みの総売上を入力するミスを想定し、クレジット端末の売上報告画面に「純売上(税抜き表示)」と表示するようにしました。店の精算レシートの純売上の欄をマーキングし、控えを店と共有するようにしました。
報告項目の削減によって、ディベロッパー側は売上確定までの作業時間が平均4時間から2・5時間へと約30%減りました。報告ミスは月に20~30件、月間報告数の1%程度です。チェックする項目が限られていますので、ミスはほぼ漏れなく修正できています。今後はOCRなどを活用し、正確性とスピードの向上を目指します。
一方、テナント側は「売上報告の時間が短縮できた」という声が圧倒的に多く、店舗により10~15分を削減、館全体では月300時間の報告作業を削減できました。閉店作業も自社のレジ締めに1分程度加えるだけで終わります。また、「属人化の解消につながった」という声もあります。店長や特定のスタッフしかできなかった報告業務を新人もできるようになり、教育面の負担が軽減、ES向上にじかにつながる結果になったと実感しています。
当社が売上項目の標準化によって得られた効果は、ディベロッパー側は作業時間の大幅な削減、テナント側は働きやすさの向上でした。標準化によるデメリットはほとんどありません。むしろ標準化の時期が遅れるほど、従来の業務負担が続くことになるので、早期の標準化をお薦めします。
「割り切り」に思想転換を
【林】 「誤った報告内容を見逃してしまう」「クレジットの差異確認はやめられない」という意見はありませんでしたか。
【岩谷】 それまでチェックしていた項目がなくなるので、懸念する担当者もいました。ただディベロッパーにとって一番必要なのは、純売上が正しく報告できていることだと考え方を変えてもらいました。割り切ることが重要です。
店やテナント本部から「売上げが合わない」「クレジット売上げを打ち間違えてしまった」という連絡が来た場合は、店に確認・修正対応をお願いし、どう処理したのか、何が違っていたかを後から報告してもらい、訂正後の数字を共有しています。その際に訂正すれば大きな問題にはなりません。
【林】 勉強会では「システム改修のコストが高そうだ」と懸念する声もありました。
【岩谷】 以前は決済端末から手入力で売上報告をしてもらい、その数字を目視で精算レシートと照合していました。1つひとつ細かくチェックし、合計が合わないと入力ができない売上管理システムでした。それを客数と純売上だけを打ち込むだけの仕組みに変更して、費用は数十万円だけかかりましたが、今後のシステム費用を考えると、コスト削減の効果は十分に出ると思います。
具体化に向け議論が進む共通プラットフォーム構想
【林】 では標準化の先に見据えている共通プラットフォーム構想に話を進めます。共通プラットフォーム構想とは、今まではテナントからディベロッパーの端末や紙の報告書を通じて、個別にもらっていた売上データをデジタル化しようというものです(図1)。
図1 共通プラットフォーム構想の模式図
しかも各テナントから直接ディベロッパーに渡すのではなく、共通プラットフォームに送信してもらう。ディベロッパーは必要なデータを取りに行く。両者をつなぐデータの桶のようなものです。各社が個別に異なる仕様でデータをやり取りする場合に比べ、投資を極小化できます。DX委員会では2025年に「デジタル化ワーキンググループ」(以下、WG)を発足させ、具現化に向けて議論しました。そこでみえてきた課題がいくつかあります。
1つ目はテナントのPOSレジからデータを送ってもらうだけでは、売上げを把握するには不十分だという課題です。たとえば複数のレジを設置している店舗では、レジを全部つなげなければなりません。また最近はフードデリバリーやBOPIS(ネット注文品の店頭受け取り)など、レジを通さない取引が増えていることもネックです。
2つ目はシステム改修が困難なテナントへの対応です。すべてのテナントが利用できるかという問題です。
3つ目は前例がなく、費用対効果などがみえないという課題です。
それではWGでリーダー役だった㈱良品計画の佐野さんから進捗状況などを説明してもらいます。
【佐野】 売上報告業務の標準化はDX委員会で標準化案を策定。実装した企業で実績を確認しました。今は共通プラットフォーム構想の具体化を進め、少数の企業でPoC(概念実証)を実施しようと協力企業を探している段階です。今後はPoCを実行して、業務効率化の効果を測定し、その後導入企業を広げていく予定です。
図2はシステム構成の一例です。
図2 共通プラットフォームのシステム構成の例

左側はテナントです。店舗では有人レジとセルフレジから日々の売上げが上がってきます。ネット注文品を店舗で受け取るBOPISの売上データは、クラウドのサーバーに直接登録されます。それらをまとめた1日分の売上実績データはテナント本部の会計システムに取り込まれます。この売上実績データをディベロッパーに渡す際には、図の上部にある共通プラットフォームにて変換処理したうえで、ディベロッパーに取り込んでもらいます。
現在はPoCに協力してもらえそうなシステムベンダーを探しており、複数社と接触しています。また売上データシステム連携については、当社が個別にディベロッパーとシステム連携の実績をつくり、それをSC協会に還元して、共通プラットフォームに必要なシステム要件を固めたいと考えています。
プラットフォームの活用でレジ2度打ち問題の解決も
【佐野】 ところで日頃からテナントは自社レジと館端末という「レジの2度打ち」という課題を抱えています。たとえば当社ではピーク時間帯やセール期間中にレジ待ちの列ができてしまいます。そこでセルフレジの導入などの対策を取り、一定の効果を上げています。ただ実は約3割の店舗にはセルフレジが導入できません。ディベロッパーから貸与された決済端末(以下、館端末)を利用することが必須の契約条件となっている場合、ディベロッパーの館端末とシステム連携しなければなりませんが、それは容易にはできないのです。
レジで会計する際には会員登録からはじまり、商品を登録して、金種を選択して、テナントの持ち込みレジで会計をします。その後、ディベロッパーの端末に金額を入力して、金種を選択し決済します。館端末を使った処理には10秒前後かかります。これによってお客様を余計にお待たせしてしまっているのです。
1日の営業が終わってレジを締める際には、テナントの持ち込みレジとディベロッパーの館端末でそれぞれ精算レシートを出力し、両方の金額や金種別の突合処理(会計金額の確認)をします。不一致があった場合はどこで間違ったのかを修正処理します。誤打刻の修正には15~30分かかります。
2度打ちを解消するには、①館端末とテナントPOSを連携させる、②ハウスカードとテナント端末を連携し、かつ館会員システムとテナントPOSを連携させるという2つの対策があります。
①の場合の課題は、テナント側はディベロッパーごとにシステム対応が必要なことです。館端末とテナントPOSを連携するのに1機種あたり1年・1億円以上の期間とコストがかかります。さらに端末入れ替えのタイミングでもう一度同じ開発をしなければならず、たいへんな負担になります。
ディベロッパー側でもPOS連動が可能な決済端末の開発が必要です。しかも5年で端末を入れ替えるのならば、そのタイミングで全テナントとの個別調整が必要になる。調整はたいへんで、実装に向けたハードルは非常に高いと思います。
一方、②の場合の課題は、テナント側はディベロッパーごとに会員システムの連携が必要なことです。でもこれは共通プラットフォームを経由して連携すれば、互いのシステム投資を最小化することができるのです。
レジの2度打ちという以前からあった課題を解決するためには、共通プラットフォームの活用が有効であるということです。今後の進め方は、共通プラットフォームでまず売上報告データ連携を実現し、次にポイント連携機能の共通化に発展させることになります。
業界横断の効率化に賛同
【林】 共通プラットフォームを整備すれば、売上精算報告の業務を改善できるだけでなく、テナント各社を悩ませている館端末と専門店のレジを2度打たなければならないという課題も、解決できるのではないかという提案でした。最後にひ頃から一言ずつお願いします。
【岩谷】 勉強会で実務担当者の話を聞くと、売上項目の削減に積極的です。ただ障害があって進まないと悩んでいる人が結構います。重要なのは「割り切る」ことだと思います。
【小瀧】 当社では業務標準化を実施した結果、属人化が解消されたと紹介しました。業務標準化が導入されれば、スタッフの負担を軽減できます。業界全体でぜひ進めていければと思います。
【佐野】 テナントとディベロッパーがそれぞれに進めるには限界があります。業界横断で効率化を目指すというSC協会の意気込みに賛同します。今後も業界全体の最適化に努めたいと思います。
(文/西岡 克)








