ショッピングセンター(SC)で働きませんか

2019/06/25 更新 SCを安全で楽しく、誇りが持てる職場とするためには?~テナントからディベロッパーへの提案~

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第43回 日本ショッピングセンター全国大会 パネルディスカッション

登壇者(全て敬称略 ※役職は取材当時のものです。)
<パネリスト>
福田 三千男
(株)アダストリア代表取締役会長 兼 社長
<パネリスト>
竹田 光広
(株)ユナイテッドアローズ代表取締役 社長執行役員
<パネリスト>
菊地 唯夫
ロイヤルホールディングス(株)代表取締役会長 兼 CEO
<コーディネーター>
飯嶋 薫
(株)R・B・K代表取締役(一社)日本ショッピングセンター協会理事/全国大会実行委員会委員長

飯嶋 2018年1月、(一社)日本ショッピングセンター協会では「ショッピングセンターにおけるES宣言・行動指針」(以下、ES宣言)を発表しました。それから1年が経ち、ショッピングセンター(以下、SC)の現場でES(従業員満足)の取り組みは進んでいるのでしょうか。また、SCではテナントの退店が相次いでいます。現在テナントは、人手不足、売上げが厳しいなかでの賃料の高止まり、人件費の高騰、物流コストの増大といった「四重苦」になっています。

 本日は、ES宣言そしてテナントがおかれている現状と具体的な対策について、活発な意見交換をしていきたいと思います。

人材確保の難しさ

飯嶋 まずパネリスト各社の現状について教えてください。
福田 私はアパレル業に携わって50年を迎えますが、販売員が安心して働ける職場づくりは長年の大きなテーマです。先日ある社員の親御さんから「娘は30代だが、販売で忙しい日々を過ごしている。今のままでは娘が結婚できないのではと不安になり、仕事を辞めさせることにしました」と打ち明けられました。親御さんは私に苦言を言ったのではなく、純粋にお嬢さんの将来に不安を感じたようです。社員の不安を解消し、モチベーションを高め、人材を確保していくのはとても重要な課題です。
竹田 当社創業者の起業の志は「販売員の地位向上」でした。これまで経営理念に基づきさまざまな取り組みを行ってきましたが、創業から30年が経った今でも未だに販売員の地位向上には到達していないと感じています。
菊地 冒頭の四重苦は、一時的なものではなく構造的な問題です。SC業界全体で改善に取り組んでいく必要があると考えます。
竹田 近年、新卒採用は非常に難しくなっています。また働き方も多様化しており、正社員だけでなくアルバイトやパート社員も含めて、店舗運営や人手不足対策を考えていく必要があります。その取り組みの1つとして、当社では正社員は接客に集中し、アルバイトがバックルームでの付帯業務を行う体制を構築しつつあります。
 そのほか、販売員の社会的地位向上に向けて、優れた販売スペシャリストを認定する「セールスマスター制度」を取り入れています。また、サンキューノート(お客様からの感謝の言葉)のMVP表彰も行っています。販売員のモチベーションの向上だけでなく、好事例の共有によってサービス向上にもつながると考えています。
福田 当社でも年々採用が厳しくなっています。今後はこれまで以上に厳しくなるでしょう。当社では2年前から支店制度を導入。ブランドの垣根を越え、支店単位で採用や教育を行い、人手不足を解消するのもこの制度の目的の1つです。制度導入後は、現場での教育・採用の労力が減り、接客に集中できるようになりました。
 また人事制度も改定し、自分に合った働き方で仕事を続けられる体制をつくりました。販売員はピラミッドの底辺ではなく、企業の最前線であるという考え方のもと、販売職を希望する社員が年齢を重ねてもそのまま継続できるよう給与の上限の引き上げも行いました。
 このほか、時短で働く子育て社員の働き方について、これまでは業務負担を軽減する取り組みが中心でしたが、年々子育て社員の人数が増えていくなかで、周りをフォローするスタッフだけに負担が偏ることのないよう、一部制度の見直しを検討しているところです。
菊地 私が社長に就任する前の話ですが、新卒の離職率が高かったため、採用しても意味がないという理由で、新卒採用を中止していた時代がありました。その結果、現場の活力が下がり疲弊していったのです。現在は新卒採用を再開していますが、若い人を安定的に採用することはとても大事なことなのです。
 離職率を下げることも大きなテーマです。離職率の低下を抑える面で効果を感じているのが、従業員向けの決算説明会です。通常、決算説明会は投資家向けに行うものですが、日々業務に忙しい従業員に向けて行うことにより、会社の方向性を共有し、経営と現場の距離を縮めることができました。
 新卒社員を辞めないようにする取り組みも行っています。当社はしばらく新卒採用を中止していたことで、新卒社員のロールモデルとなる若い先輩がいませんでした。そこで新卒社員のためのメンター制度をはじめました。
 また、ロイヤルグループにはさまざまな事業があるので入社後全事業を1カ月ずつ経験する研修を行っています。6カ月間の研修が終わった後、自分の就きたい業務の希望を聞いて配属しています。

働き方改革にどう対応するか

飯嶋 働き方が変化しています。テクノロジー活用など、今後必要な取り組みなどを教えてください。
福田 販売員の負担を少なくすることが大切です。たとえば中国では買い物で現金を使うことはほとんどなく、閉店後の集計作業で販売員が残業することはありません。日本は現金比率が高いため現金の確認作業が多い。業務効率を上げるには、キャッシュレス決済の優先度は高いと思います。
菊地 現在の外食産業のビジネスモデルは人口増加時代に築かれたもので、人口減少の時代にも通用すると考えるのは傲慢かもしれません。人口減少社会における外食産業モデルとは何かを私たちは考えなければなりません。
 また、市場が縮小し働き手も減少する時代においては、業務の質を高めなければなりません。そのためにあえて規模を縮小し質を高めることも必要です。ロイヤルホストでは24時間営業を廃止して休業日も設けました。営業時間を短縮した分、コアタイムの接客担当者を増やしサービスを向上させたのです。もちろん同じやり方がすべての店舗や業態にあてはまるわけではありませんが、結果として売上げは前年を超えることができました。
 またテクノロジーについては、単純作業はすべて機械化し、人は接客や企画など価値を生む仕事に注力するべきと考えます。
飯嶋 多くの外食産業が売上げを落としているなか、ロイヤルホストだけが増えていますね。営業時間や休業日などの改善はSCでもできる取り組みだと思います。

求められる人手不足対策

飯嶋 そのほかの経営課題について教えてください。
福田 1つは物流コストの問題です。ディベロッパー(以下、DV)と協力し物流費を下げることができないでしょうか。たとえば早朝にDVの倉庫に着いたテナントの商品の集配など、DVにも一緒に考えてほしいです。
 もう1つはサスティナビリティの問題です。当社では、2019年は福袋を販売しませんでした。福袋の売上げは大きいのですが、そのために商品を生産しなければならない。赤字になるだけでなく、社会は「余る」「捨てる」ことに厳しい目を向けはじめています。売上げのためだけに無駄なものをつくることが本当に必要なのか。そう考えてやめる決断をしました。
 現在、日本は先進国のなかで衣料品が最も安い国になっています。そして品質も悪くなりつつあります。これからはお客様のニーズをきちんと把握して、商品も消化しきるように切り替えていかなければなりません。セール価格ではなく極力プロパー価格で売り、商品を捨てないことが大切です。そして企業が継続的に利益をあげる体質になることは、従業員の処遇向上のためにもっとも重要だと考えます。
竹田 課題は人手不足対策です。当社では正社員登用制度を導入していますが、現在は働き方が多様になり、必ずしも全員が正社員の勤務体系を希望しているわけではありません。今後時短勤務が増えていくなかで、皆が平等に感じる制度が必要です。
 また、有給休暇取得を積極的に奨励した職場では離職率が下がってきています。このような取り組みはもっと広げていきたいですね。このほか、報酬制度の改定やイントラネットによる付帯業務の一元管理、RFIDの導入による棚卸の効率化、無線レジの導入なども進めています。その一方で、質の高い接客やアフターケアにも注力していきます。
菊地 私も人手不足対策が重要だと感じています。今後日本は生産年齢人口が大幅に減少し、それに向けたサスティナブルなビジネスモデルの構築が必要です。そのためにはさまざまなトライアンドエラーに取り組み、時には規模を縮める勇気も必要になります。さらにテクノロジーの活用も重要です。私はいわゆる第4次産業革命は、初めてサービス業に波及する産業革命だと思います。「人withテクノロジー」の概念で考えていくことが大切ではないでしょうか。

適切な営業時間と休業日の設定を

飯嶋 明るく楽しいSCのために、パートナーであるDVへの提言をお願いします。
竹田 望むのはテナント会社単位ではできないこと、つまりSCの営業時間の適正化や休業日の設定です。適正化というのはなかなか難しいですが、ぜひ取り組んでいただきたいです。
福田 営業時間や休業日は、全国一律ではなく地域や季節によっても何が適正であるのか異なるので、過去のデータから分析することも必要ではないでしょうか。
菊地 適切な営業時間とともに、元日休業も考えていいと思います。当社は、2018年から元日休業を行っていますが、元日はもともと売上げが高く、はじめる前は懸念があったものの、結果的に1週間で取り戻しています。もちろんお客様や株主の満足度とのバランスを見ながらになりますが、なにより従業員のモチベーションが高まることが大きいと感じています。
飯嶋 契約についてはどうですか。
菊地 SCに出店する際の設備投資・コストが課題です。定期借家契約の5年間で回収しなければいけないとなると、人件費や原材料費を抑えなければなりません。そうすると店舗や商品の魅力が低下し、結果としてSCの魅力低下にもつながります。また外食産業は多様な業態があるので、契約にも多様性を認めてほしいです。このほか災害時の対応やキャッシュレス決済の導入についても議論できればと思います。
福田 SCにおいてDVの責任は集客をすることで、テナントの責任は商品とサービスでお客様に満足してもらうことです。しかし最近のセール回数の増加によって、テナントにしわ寄せが来ています。そこを見直してほしいです。
竹田 セールの長期化についてぜひ見直してほしい。またセール時の賃率についても再考してほしいです。

eコマースとリアル店舗

飯嶋 現在eコマースが隆盛です。SCとeコマースは今後どうあるべきでしょうか。
福田 eコマースの成長は必要なことですが、ファンづくりにおいてはやはりリアル店舗の果たす役割が重要だと考えています。お客様がリアル店舗に「わざわざ来る」想いは何かを考えていかなければいけません。
菊地 当社はeコマースに強い危惧を抱いています。物販店などのリアル店舗が減少すれば外食店も成立せず、WIN-WINではなくなります。

売上至上主義からの脱却

飯嶋 最後にひと言お願いします。
竹田 営業時間やコミュニケーションもそうですが、販売以外の付帯業務を極力軽減して店舗業務に集中できればありがたいです。
菊地 現場のストレスとなっているのは付帯業務です。外食産業はお客様との接点で価値を生み出さなければならないので、その点を一緒に考えていきたいです。
福田 販売員に堂々と仕事をさせたい。営業時間や休業日の問題もそうですが、SCのなかで安心して働ける環境を一緒につくっていきたいですね。
飯嶋 テナントとDVの危機感には大きな温度差があると感じています。冒頭に申し上げた四重苦の解消には、DVが売上至上主義から脱却し、館の価値を上げることに注力することが大切です。私は以前、あるテナント企業にいましたが、その時、ルミネ横浜初代社長の速水氏がテナントオーナー会で「自分たちDVの最大のお客様は皆様方テナントです。テナントからの信頼があってはじめてルミネの成長があります」というありがたい言葉をいただきました。その積み重ねの上に、安心して楽しく、誇りをもって働けるSCの姿があると思います。本日、3人のパネリストの話を聞いて改めて思いました。

(全て敬称略)
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