愛知県豊田市の中心部に展開するショッピングセンターT-FACEを管理運営する豊田まちづくり㈱では、販売スタッフの働きやすい環境づくりを推進する「T-FACE de E-FACE」プロジェクトを2025年4月からスタート。働く環境改善の取組みの一環として日本ショッピングセンター協会の提言を参考に売上報告項目を16項目から4項目に減らしショップとディベロッパー双方の業務負担軽減を図った。
今回は、導入に至った経緯と導入の流れそして導入から1ヶ月を経た現在の状況について、営業部門に所属し日々ショップと接する高橋さんと、経理部門に所属しショップの売上報告を確認する中垣内さんに導入までの経緯と導入後についてインタビューを行った。
(取材日:2025年5月9日 オンライン)
豊田まちづくり株式会社 | ||||
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商業施設事業部 |
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経営企画室 経営企画事業課 中垣内 亜紀氏 |
T-FACEの概要
- 本題に入る前に、T-FACEでのショップ出店契約の形態、賃料形態、預り金管理の方法について教えてください
【高橋】出店契約は原則として定期建物賃貸借契約です。また、最近では期間限定出店のポップアップストアが増えており、催事契約が増えています。賃料形態は、ほとんどのショップで歩合を含む形態です。売上の預り金管理も行っています。
- T-FACEのショップ数は
【高橋】約130ショップです。そのうち物販が95店舗、飲食が18店舗、サービスが17店舗、そして7つの公共施設で構成されています。
- 導入している決済の種類とポイント制度について教えてください
【高橋】現金、クレジットカード、電子マネー、QRコード決済、ギフト券が利用可能です。ハウスカードは2種類あり、1つはクレジット機能のないポイント機能付きアプリ・カードの併用、もう1つはEposクレジットカードです。
- 売上管理業務に関わる貴社の体制を教えてください
【中垣内】外部委託はせず、自社内で4人の社員がシフトを組み、日次業務は2人で対応しています。
- 売上報告から売上確定までの流れを教えてください
【中垣内】ショップは営業終了後、その日のうちに売上送信端末で売上を報告し、証憑類として精算レシート(Zレシート)、商品券類、クレジットカード利用伝票、クレジット日計表、売上送信端末から出力される報告送信レシートをクリアケースに入れて提出してもらいます。手書きの紙の日報は数年前に廃止しました。
翌朝からディベロッパーによる確認作業が始まり、報告に確認が必要な誤りがあれば日中にショップに照会し、概ね翌日の昼から遅くとも夕方には売上が確定します。
導入にあたっての経緯
- 売上報告の見直しに着手したきっかけを教えてください
【中垣内】もともと、ディベロッパーとしてショップから報告いただいた内容の修正に多くの時間を割いていた現状を改善したいと考えていました。そんな折、2024年1月に開催されたSCビジネスフェアで売上報告効率化に関する無料セミナーを聴講しました。それまではディベロッパー側の業務効率化の視点で考えていましたが、セミナーを通じてショップ従業員の方々も苦労されていることを知り、このままではいけない、改善しなければならないと感じて社内での検討に取り掛かりました。
- 社内での検討はどのように進めていったのですか
【中垣内】まず、売上管理業務に関わる4名で、ショッピングセンター協会が提言した4項目をどうすれば実現できるか、課題の洗い出しと解決方法を議論し、所管部署として意見をまとめました。その後、営業部門など他部門の理解を得て実現に至りました。2024年1月のセミナーを聴講した時点では2~3年後の実現を目指していくつもりでしたが、2025年4月にポイントシステムの改修が決定したため、この機会に4項目化もスタートさせようと考え、本格的に検討を始めてからは約半年で実現できました。実は、当時社内ではT-FACE全体をショップクルーの働きやすい環境にしようという「T-FACE de E-FACE」プロジェクト構想が進行しており、社員全員が同じ方向を向いていたこともあり、社内の理解はとても早かったです。
- 社内での検討はスムーズにいったのですね
【中垣内】部門間の調整はスムーズにいきましたが、むしろ自分たち売上管理業務担当者自身の意識改革に苦労しました。「ショップの報告値が正」という発想への転換は、頭では理解していても、実際にこれまで自分たちが必要だと思って確認していたことをやめるのはとても勇気が要りました。しかし、従来のやり方にとらわれず、どうしたら4項目が実現できるかを突き詰めた結果、2025年4月からの4項目化を実現できました。
- 具体的に検討の中ではどんな課題が挙がりましたか
【中垣内】大きく3つの課題がありました。
1つ目は売上報告の精度と不正対策です。ここは、精算レシートなどの証憑類の提出を継続し、ディベロッパー側でも確認することで、従来の精度と不正対策を維持できると結論づけました。ちなみに、不正対策については、報告項目数を16から4に減らしても新たに見抜けなくなる不正はないと考えました。つまり、4項目と精算レシートで見抜けない不正は、16項目でも見抜けないと思います。
2つ目は、ショップ(本部)が把握する売上高とディベロッパーで把握している現金入金額やクレジット等決済金額が異なる場合、本部からの問い合わせが増えるのではないかという点です。これは、4項目化によってディベロッパーは売上の詳細を把握しなくなるため、ショップにて確認をお願いすることにしました。
3つ目は、これまでディベロッパーが気付いていたクレジットカード決済の誤り(金額誤りや二重計上など)を確認できなくなることでした。これも2つ目と同様に、発生時はショップ側でチェックをお願いすることにしました。やはり、ショップの報告値を正とし4項目化することで、これまでディベロッパーが見えていたものが見えなくなります。つまり、これまで以上に責任を持ってショップ側で決済していただく必要が出てきました。
- テナントの報告値を正とするというのは、具体的にどういう変化を生みましたか
【中垣内】これまでディベロッパーが把握していた決済の内訳を、ディベロッパーは把握できなくなります。売上金額と決済金額に差額が発生してもディベロッパーでは確認ができません。ショップにはこれまで以上に責任を持ってレジ決済や売上報告をお願いすることになりました。
- 4項目を決めた後、導入するまでに行ったことを教えてください。
【中垣内】ショップへの説明、システム改修、各種マニュアルの修正です。ショップへの説明は、2025年3月(導入前月)中旬の店長会で書面を用いて行いました。同時期にテナント本部にも書面でお知らせしました。
システムは決済端末(売上送信端末)と売上管理システムの改修を行いましたが、どちらも軽微な変更で済みました。
各種マニュアルはショップ向けと自社の売上管理担当向け、それぞれのマニュアルを更新しました。
導入以後の状況について
– ショップからはどんな声が聞かれますか
【高橋】売上報告に慣れている従業員が多い店舗からは「作業時間は大きく変わらない」という声も聞かれますが、慣れていない従業員が多い店舗では「大幅に削減できた」という声が聞かれます。また、最近増えているポップアップストアに対する売上報告のレクチャーが簡素化されたという効果も見られます。
【中垣内】過去には入金機の操作を誤って、別のショップに入金してしまうことがありました。従来であれば翌日にディベロッパー側で入金誤りに気付いていましたが、4項目化したことで、預り金の返還(賃料精算)時にショップ(本部)側で気付くことになり、問い合わせがあってから調査する後手の対応になってしまいます。実際にはまだ発生していませんが、今後発生する可能性はあり懸念しています。
- ディベロッパー側では効率化が進みましたか?
【中垣内】確認する項目が減ったのでチェックが簡単にはなったものの、導入して1カ月の時点では、ショップから誤った報告も散見されている状況で、目に見えた効果はまだありません。ただし、2024年10月から先行して開始したクレジットカード等の差額発生時の対応方法の見直しによって、1日あたり30分~1時間の作業時間削減は実現できています。ショップに確認対応していただくことも大幅に減りました。とはいえ、まだ導入から1ヶ月なので、このやり方に慣れてくると、より効果が見えてくるのではないかと期待しています。
<編集後記>
提言をいち早く実践して頂いた豊田まちづくり株式会社の皆さまに深く感謝いたします。検討から導入まで約半年というスピード感にとても感銘を受けました。インタビューでご協力いただいた高橋さん、中垣内さんのお話は、これから提言を導入しようと検討しているショッピングセンターにとって大いに参考となったのではないでしょうか。今後もデジタルトランスフォーメーション委員会は、本提言の普及・定着に向け、会員各社と連携しながら取り組みを一層推進してまいります。