ショッピングセンター(SC)で働きませんか

2018/08/30 更新 ―人材確保対策特別委員会委員長に聞く― ショッピングセンターにおける ES宣言・行動指針 ~SCにおける働き方改革と魅力的な職場づくり~

(一社)日本ショッピングセンター協会理事 総務委員会委員長
人材確保対策特別委員会委員長
三菱地所・サイモン(株) 代表取締役社長

山中 拓郎


(一社)日本ショッピングセンター協会(以下、SC協会)は、2018年1月に開催された第42回日本ショッピングセンター全国大会で「ショッピングセンターにおけるES宣言・行動指針」(以下、ES宣言・行動指針)を発表した。近年問題となっているショッピングセンター(以下、SC)におけるテナント従業員の負担軽減、人手不足を解決していくための第一歩であり、政府が進めている「働き方改革」に呼応するものである。SC協会としては、業界をあげてテナント従業員が生き生きと働ける環境を整備し、より一層の従業員満足(ES)向上と人材確保を推し進めたいと考えている。そこで今回、ES宣言・行動指針の策定に中心となって取り組んできた人材確保対策特別委員会委員長を務める三菱地所・サイモン(株)代表取締役社長の山中拓郎氏にES宣言・行動指針の目的と今後の取り組みなどについて話を聞いた。

―ES宣言・行動指針について発表に至った背景とその目的について教えてください。

近年、日本全体で人手不足が深刻化していますが、その大きな要因は、少子高齢化や人口減少など人口動態の変化が挙げられています。この問題に対処すべく、政府は働く人の視点に立ったさまざまな改革に取り組んでいます。働きながら子育てをする女性や高齢者など、誰もが活躍できる社会の実現を目指す、いわゆる「働き方改革」です。
人手不足は、SCにおいても深刻です。とくにテナント従業員は、明るく華やかで活力があり、お客様と直に接するやりがいのある仕事のイメージがある一方、オフィス勤務と比べて立ち仕事であることや働く時間が長いイメージなどから、人材確保が思うように進みません。また、人手不足に伴い一人ひとりの業務負担も増え、その結果ESの低下につながり、離職に至ってしまうという悪循環も起きています。人材が採用できず新規出店できない事例も増えており、お客様にとっても不便が生じているなど、人手不足がもたらす悪影響は深刻さを増しています。

これまで、ディベロッパー(以下、DV)、テナント企業はそれぞれ単独でテナント従業員のES向上や人材確保に取り組んできました。DVは、SC内の保育所設置や従業員休憩室の環境改善、閉店時刻の早期化などに着手し、テナント企業は人事制度や業務の見直しを行い、テナント従業員の業務負担軽減や多様な働き方に対応してきています。しかし、テナント従業員のES向上・人材確保対策はまだ十分とはいえず、この問題は、DV、テナント企業がそれぞれ単独で取り組むのではなく、SC業界全体として取り組んでいく必要があるとの声が高まってきたのです。そして、SC協会内で対策に向けた議論と検討が重ねられ、策定されたのがES宣言・行動指針です。これからのSC運営にはテナント従業員のES向上と人材確保対策が欠かせないとの強い認識のもと、DV、テナント企業、SC協会が一体となってこの問題に取り組んでいく決意を内外に示しています。それと同時に、SCで働くテナント従業員が生き生きと働ける環境を整え、より一層のES向上・人材確保対策を推し進める、いわばスタートラインともいうべきものです。

ES宣言・行動指針のうちES宣言はES向上や人材確保対策を推し進めるための〝目指すべき方向性〟を、行動指針はES宣言を受け、具体的に取り組む課題を明記した〝ガイドライン〟となっています。発表に至るまで、DVとテナント企業のトップが当事者として本音をぶつけ合い、真摯に議論を重ねてきました。ES宣言には、その強い思いが込められています。SCは、立地、MD構成、お客様ニーズによっておかれている状況が大きく異なるので、統一した営業時間や休業日数などのルールは設定していませんが、ES宣言・行動指針をきっかけに、DVとテナントが積極的に協力し合い、よい解決策が生まれることを期待しています。

―SC協会のこれまでの取り組みについて教えてください。

SC協会は2015年からES向上・人材確保対策に取り組んでいます。当時、テナント従業員の人手不足が顕在化し業界内で大きな問題となりはじめていました。そこで、2015年度にSC協会内に人材確保対策小委員会を設置、2016年5月には「人材確保対策の取組み」を発表しました。これは「販売職の魅力度向上」、「営業時間・休業日の見直し」、「ESの充実・労働環境の改善」、「採用・雇用状況の改善」、「業務効率化による接客時間の拡大」の5つの方向性をSC業界に指し示したものです。しかし、時が経つにつれ人手不足問題はさらに深刻化し、テナント従業員の負担も増していきました。そこでこの問題への対策を強化すべく2017年5月に「人材確保対策特別委員会」が設置され、さらなる対策を進めた結果、今回の発表に至ったのです。

―ES向上・人材確保対策を推進する上で大切なことはなんですか。

多様な働き方、ワークライフバランスに目を配ることが大切です。ここで重要なのは、人が望む働き方は人それぞれ違うということ。仕事の時間を減らし育児や介護にあてたい人もいれば、逆にもっと働きたいという人もいます。固定観念にとらわれず、それぞれのSCで実際に働いている人の声を聞いて取り組むことが重要ではないでしょうか。
業務負担の軽減も大切です。人手不足に伴い店長をはじめテナント従業員の負担が増えています。DVとテナント企業それぞれが、業務全体を見直し、業務の削減や効率化に積極的に取り組んでいかなくてはなりません。さらには仕事のやりがい、楽しさ、職場の魅力を発信していくことも大切です。世の中にはSCという職場やSCで働くというイメージが湧かない人も多いのではないでしょうか。今後、SC協会が中心となってSCで働く魅力を発信していかなけばならないと考えています。
そもそも、なぜES向上は大切なのでしょうか。テナント従業員に余裕が生まれ笑顔で接客をするとお客様も嬉しくなります。お客様の笑顔はテナント従業員を笑顔にし、良好なコミュニケーションの連鎖が続いていきます。テナント従業員が笑顔でいられること、それがESの要であり、結果としてお客様・地域のためになると考えています。

―ES向上・人材確保に向けた具体的な改善策として、どんなことが考えられますか。

まず負担軽減の観点では、店舗運営に伴う付帯業務の見直しが考えられます。テナント従業員は本来の販売・接客業務のほか、さまざまな業務を行っています。DV・テナント両本部への報告・届出・申請手続き、会議・研修への参加、閉店後のクロージング業務などがあり、1つひとつは小さな負担ですが積み重なると大きな負担になっているのではないでしょうか。DVとテナント企業が協力し、業務フローを見直せば、働き方に少し余裕が出てくると思います。たとえば、商品券など金券の取り扱いは極めて日本的な業務です。現在多くのSCでは、人の手に頼って処理していますが、商品券業務や作業時間の見直し、商品券処理の機械化など手法はあると思います。

AI(人工知能)やロボットなどICT技術を積極的に導入する方法も考えられます。たとえば、パルコではロボットが棚卸しをする実験に取り組んでいます。また、RFIDを活用して棚卸し業務をサポートする技術も進んでいます。
もちろん初期投資は必要ですが、近い将来には関連機器の価格が低下し、普及版が広まるはずです。あるアパレルブランドでは、バーチャル・フィッティング体験ができる「ウェアラブル・クロージング」という端末を一部の店舗に導入しています。新しい技術を導入して従業員負担を減らす手法は今後ますます増えていくのではないでしょうか。さらにリテールではセルフレジがもっと普及してよいと思います。お客様とのコミュニケーションを重視している店舗では難しいかもしれませんが、人手不足の問題を解決するための1つの方策といえます。
採用の面では、DVとテナント企業が協力して採用に取り組む事例が増えてきています。これまでは、テナント企業が採用条件や仕事の魅力を、DVが職場環境の魅力をばらばらに伝えていました。これらを一体的に伝えることで、SCで働く魅力をしっかり伝えることができるのです。

出産、育児、介護などライフイベントにおける離職や復職への対応も重要です。育児への対応として、SC内に保育所を設置するDVがあり、今後も拡大していくと考えています。またアメリカでは、子どもだけを自宅に残して外出するのは違法なので、学生アルバイトを留守番として雇うことが多いですが、日本で普及させるのは難しいでしょう。そのためたとえば、子連れ出勤を認めるという考え方もあるのではないでしょうか。介護については、DVとテナント企業が協力してテナント従業員の勤務地を変えることができれば、介護と仕事の両立ができると思います。
当社の例を挙げますと、接客ロールプレイング大会の副賞としてアメリカ研修旅行をプレゼントしています。受賞者には非常に好評で、モチベーションの向上につながっています。このほか、神戸三田プレミアム・アウトレットの従業員休憩室をリニューアルしました。これまでは大きなテーブルで他の人と一緒に休憩していましたが、今はプライベート空間のほうが寛げるということで、一人用のスペースを拡充しています。また、その従業員休憩室には、面談用スペースも設置しました。これは打ち合わせや採用面接をする場所が無く困っているというテナント企業の声がきっかけです。この面談スペースを積極的に活用し、テナント従業員の採用などに効果を上げてもらいたいと考えています。

―最後に、今後の取り組みとメッセージをお願いします。

今後SC協会は、ES向上・人材確保に向けさまざまな取り組みを行っていきます。まずは会員企業とテナント企業にES宣言・行動指針を知っていただくことが大切です。会議や講習などあらゆる機会に周知していくと同時に、会員企業の皆様のES向上と人材確保の意識を高めていきます。
また、ES向上・人材確保に資する情報や講習機会の提供、一般の方や求職者に向けた広報、具体的な採用支援の検討などさまざまな役割を果たすとともに、人手不足解消に向けた外国人就労制限の緩和など、公共政策への働きかけにも取り組んでいきます。
ES宣言・行動指針をきっかけに、SC業界におけるES向上・人材確保対策は新たなスタートをきりました。会員企業の皆様からご意見を伺い、SC協会として誠心誠意取り組んでまいります。ES向上・人材確保対策には会員企業の皆様をはじめとした多くの方のご協力が不可欠です。働いている方々にとってSCが夢のある職場になるよう一緒に取り組んでいきましょう。

<山中 拓郎>
1984年慶應義塾大学卒業後、三菱地所(株)入社。
主にオフィスビルの開発運営に従事後、南カリフォルニア大学MBA取得。
2001年ジャパンリアルエステイトアセットマネジメント(株)企画部長、
2005年三菱地所ニューヨーク社執行副社長、
2010年三菱地所(株)投資マネジメント事業推進室長を経て、現在に至る。
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